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平成26年6月6日
モンスターペイシェントの対処法
高知県歯科医師会にて講演

モンスターペイシェントの対処法 高知県歯科医師会にて講演

 

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判例集

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A:抜歯の必要性の有無

患者は、平成11年1月26日に右下6番、7番の急性発作歯周炎と歯肉膿瘍を訴えて歯科医院を受診し、同年12月9日まで、その後歯肉膿瘍の排膿、消炎処置、投薬治療等を受けた。  
患者は、平成12年4月3日に右下奥歯の痛みを訴えて、歯科医院に来院したところ、担当歯科医師は、右下奥歯の状態を見たのみで、漠然と右下奥歯を抜歯するとのみ説明した上で、レントゲン写真も撮らず、手や器具で触るなどして動揺を確認しなかったにもかかわらず、従前の治療の経緯から、右下7番を分割抜歯した。  
患者は、歯科医院の開業者である担当歯科医師に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H14.5.27
女性 500万円 慰謝料 150万円
争点 争点に対する判断
①抜歯する必要がない歯を抜歯した過失の有無 <結論>
過失があるといえる
<理由>
歯科医が抜歯治療を行う場合、その必要性を慎重に検討すべきところ、担当歯科医はレントゲン検査や、手や器具で触れて動揺を確認することをせず、従前の治療から考えても抜歯が必要になるほど状態が悪化していたとは考えにくい歯を抜歯した。
②本件抜歯についての説明義務違反 <結論>
説明義務違反がある
<理由>
担当歯科医師は、患者に対し、抜歯した場合の利益・不利益についての説明や、抜歯の必要性の具体的な説明をせず、対象の歯を抜歯することのみを告げたにすぎなかった。
③損害 本件抜歯後2週間の間、右下歯肉の腫れや右こめかみの痛みがあり、咀嚼能力が衰えるなど悪影響が生じるが、外見上の醜さは特段目立たない。  
また、咀嚼が困難になるなどの生活上の不利益や、労働能力への直接的影響もなく、補綴が可能である。  
担当歯科医は患者宅を訪問し謝罪している。

A:抜歯後の後遺症

患者は、昭和56年6月初めころ、口腔内に異物感を覚えたため、同月8日、甲歯科医院を受診し、同月15日、右上6番の抜歯術を受けた。その後、疼痛やしびれ感を覚えるようになったとして、同医院において継続的に治療を受け、右上6番付近の骨瘤除去術及び骨鋭縁部除去術、右上7番の抜髄術の措置として、アルゼン(抜髄を無痛的に行うために歯髄を失活させる薬剤{失活剤})仮封(貼付)及びホルマリンクレゾール(FC。根管消毒剤であるが、失活した歯髄を固定する効果もあるので、失活後の歯髄を抜髄する際に用いられる。)貼付を受けた。
患者は、前記治療後麻痺感が生じ、それが増悪したとして、同年7月15日、被告病院(大学病院)歯科を受診し、担当歯科医師(教授)から右上6番の抜歯窩の治療不全に対する治療及び右上7番の歯根膜炎に対する治療を受け、同年8月10日まで通院した。患者は、その後も症状が改善しないとして、別の歯科医院や心療内科等を受診したが、昭和62年6月、自殺した。
なお、患者の相続人は、平成2年に、前医の甲歯科医院に対し、損害賠償請求訴訟を提起したが、患者の相続人敗訴の判決が確定した。 
そこで、患者の相続人が、被告病院を開設する国に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
大阪地判
H14.9.25
女性
(昭和23年生)
1億9051万0853円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
①担当歯科医は、初診時において、患者の訴える麻痺感や痛み等の原因が、前医により右上7番に貼薬されたアルゼンの薬理効果によるものであると判断して、抜髄ないし抜歯等患者の苦痛を除去ないし軽減する処置をなすべきであったのに、これを怠ったか。 <結論>
担当歯科医に過失はない
<理由>
被告病院で診察された歯根膜炎が、薬物性の歯根膜炎である可能性は低い。仮に患者の歯根膜炎が、アルゼンが飛び石的に血行を介して歯根膜に移行したことにより生じた歯根膜炎であったとしても、右上6番の抜歯窩周囲の炎症が右上7番の歯根膜に波及した歯根膜炎の可能性が高いと診断したことは相当の理由(3つの理由が列挙)がある。
②担当歯科医の過失と患者の自殺との間に因果関係があるか。 <結論>
担当歯科医に過失があると仮定しても、自殺との間に相当因果関係はない
<理由>
患者の相続人は、担当歯科医において、患者が砒素性歯根膜炎に罹患していたのを見落とした過失により、アルゼンが歯槽骨、上顎洞にまで達し、砒素性歯槽骨炎、砒素性上顎洞炎を引き起こし、それにより全身異常を引き起こし抑鬱状態になって自殺したと主張するが、患者は砒素性歯槽骨炎、砒素性上顎洞炎であったとは認められない。また、自殺には他原因の存在も考えられる。

A:誤抜歯

患者は、平成14年6月1日、歯科矯正のため、甲矯正歯科を受診し、患者の希望等もあって、上左および下左右については第1小臼歯(以下「4番」という。)を、上顎右については補綴処理された5番を、それぞれ抜去することになった。  
同月10日、患者は、上右5番、上左4番、下右4番及び下左4番を抜去するよう指示した被告歯科のA歯科医院宛の紹介状及びパントモ(歯のレントゲン写真)を持参して、被告歯科を受診した。しかし、A歯科医師は、上左、下右、下左の各4番の他、本件紹介状の指示とは異なり、上右についても4番を抜去した。  
そこで、患者は、被告歯科の開設管理者とされていたBに対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H16.9.1
女性
(昭和48年生)
396万円 治療費 20万円
慰謝料 50万円
弁護士費用 10万円
争点 争点に対する判断
①Bの使用者責任及び債務不履行責任の有無。 【債務不履行責任】
<結論>
A歯科医師が、紹介状の記載を見落とし、抜去すべき歯を誤信したまま抜去したことについて過失があることは明らかである。

【Bの使用者責任の有無】
<結論>
BとA歯科医師との間には使用関係があり、Bには使用者責任がある
<理由>
Bは平成9年初め頃に毎月金員の支払いを受ける約束で被告歯科の開設管理者になることを承諾したというのであるから、被告歯科において管理責任を負う立場に就くことを認識・了解していたものと認められ、A歯科医師が被告歯科に勤務しているという関係にあった。
②損害 【治療費】
患者が、残存した補綴処理された歯にセラミックコーティングを施して天然歯と同様の外見を維持したいと考えるのは当然であり、A歯科医師の過失と相当因果関係のある損害である。
【慰謝料】
患者は、歯列や咬合の改善のみならず、審美的にも自らの歯を良好にするために、歯科矯正を受けたところ、抜去を予定していなかった天然歯を抜去され、抜去を希望した補綴処理された歯が残存することになったことによる精神的苦痛は小さくない。また、A歯科医師が抜去すべき歯を間違った原因は、初歩的で単純な不注意によるものである。 ただし、上右4番が抜歯され、上右5番が残っても、歯列及び咬合の点では問題はなく、セラミックコーティングを施せば、審美上の問題も相当程度改善される。

A:親知らずの抜歯

平成10年7月22日、患者は、歯科医院を受診して、右下智歯近辺に痛みがあることなどを訴えた。そこで、担当医師はパントモグラフィーの撮影(パノラマX線撮影)をするなどした上、患者に対し、智歯については左右上下の4本とも抜歯するのがよいと説明し、患者の了解を得た。  
担当歯科医師は、同月23日、患者の左上智歯及び左下智歯を抜歯し、同月28日、患者の右上智歯及び右下智歯を抜歯した。  
患者は、平成10年9月21日、担当歯科医師を受診し、舌の右側先端部分に麻痺があると訴えた。このような訴えは、患者が右下智歯を抜歯されるまではなかった。また、患者は、平成12年5月8日及び同年6月9日にも担当歯科医師を受診し、上記の麻痺に変化がないと述べた。さらに、患者は、平成13年4月5日、舌右半側のしびれを主訴として、担当歯科医師から紹介を受けた甲病院を受診し、その後、同病院に通院して治療を受けた。  
患者は、歯科医院に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.9.14
男性
(昭和27年生)
6689万2586円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
右下智歯抜歯の際の担当歯科医師の過失により、患者の舌神経が損傷されたか。 <結論>
過失があったとは認められない
<理由>
歯科医師が、舌神経の損傷を避けるべき注意義務を全うするために、どのような方法をとるべきであったかについて検討するに、この点につき患者の主張は2つある(①右下智歯の歯根を上下に分割するのみでなく、さらに舌側と頬側とに分割すべきであった、②抜歯に困難を伴うときには、歯槽骨の一部を除去して被抜去歯の抜去方向を変えるべきであった)。  
①に関して、患者の右下智歯は水平埋伏歯であり、歯根が2根あって、それらが上下に位置していたのであるところ、このような場合においても患者主張の如く分割するべきととする資料は提出されていない。
②についても、本件において、歯槽骨の一部をさらに除去して右下智歯の抜去方向を変えるべきとする資料は提出されていない。そうだとすれば、患者の主張するような義務を担当歯科医師が負っていたということはできない。

B:インプラント

患者は、20歳代前半ころから歯槽膿漏等のため歯を失うことが続き、平成8年には、上顎天然歯は、左右各1から3番までの範囲内に5本と、右8番の合計6本を残すのみとなった。
残されたそれら天然歯も、前部の5本が歯槽膿漏のためぐらつく状態で、局部床義歯にも不具合が生じていた。患者は、同年8月ころ、インプラント治療に関する広告を見て以来、インプラント治療に関心をもつようになり、同年10月29日、被告歯科(個人病院)を受診した。
被告歯科を経営する担当歯科医師は、患者の上顎にインプラント治療の適応があるものと判断し、前歯については、歯槽膿漏のためこれらを抜歯した上で、左右各4ないし6番の位置に合計6本のインプラント体を埋入し、これを支台として、そこに13本の歯冠部からなる本歯を装着するという方法をとるとの治療計画を立てた。

担当歯科医師は、患者に対し、インプラントの術式等については詳しく説明したが、インプラント治療に伴うリスクについては、担当歯科医師の指示に従っていさえすれば、インプラント治療は必ず成功するかのような印象を与える説明の仕方をした。
担当歯科医師は、インプラント治療を開始し、これらを継続したが、時間が経過しても、インプラント体は上顎骨に結合しなかった。インプラント体の埋入は5回にわたって繰り返されたが、それでも上顎骨への結合が認められなかったことから、インプラント治療は、不成功のまま平成11年12月に終了した。担当歯科医師は、インプラント治療継続中、患者からインプラント体埋入部位の痛みを繰り返し訴えられたが、抗生物質、鎮痛剤を処方するのみで、それがどのような痛みである等の問診をせず、痛みの原因について診断するということもしなかった。  
そこで、患者が、担当歯科医師(個人)に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
大阪地判
H15.1.27
男性 863万5千円 治療費 463万5千円
慰謝料 100万円
弁護士費用 56万円
争点 争点に対する判断
①インプラント治療の適応があったか、インプラント治療の適応を判断するのに十分な診察、検査が行われたか。 【インプラント治療の適応の有無】
<結論>
適応がなかったとはいえない
<理由>
顎骨はインプラント体を埋入するのに十分な骨量を有していた。
【十分な診察・検査の有無】
<結論>
適応判断に必要とされる診察が尽くされていなかったとはいえない
<理由>
担当歯科医は、治療に先立ち問診、視診、触診、パノラマレントゲン写真撮影、歯型採取を行っている。
②インプラント治療の手技上の過失があったか。 <結論>
過失があったとはいえない
<理由>
インプラント体埋入部位に開けられた穴が大きすぎたとはいえず、埋入方法も不適切であったとはいえない。
③インプラント治療実施に当たっての説明義務違反の有無 <結論>
説明義務違反がある
<理由>
担当歯科医は、患者に対し、治療が不成功に終わる可能性があることなどのインプラント治療の短所や、患者におけるインプラント治療の成功確率を下げるような消極的要因を説明していなかった。
④説明義務違反と患者の精神的苦痛等との間の因果関係 <結論>
因果関係を肯定
<理由>
患者がインプラント治療の短所について正確な知識を有していなかったこと、インプラント治療が成功しないリスクが大きかったことなどの事実に照らし、担当歯科医が説明義務を尽くしていれば、高額の治療費を支払ってまで治療を受けることはなかったであろう高度の蓋然性が認められる。

B:義歯のトラブル

 患者は、平成11年3月30日、下左のブリッジの動揺を主訴として、被告病院歯科を受診した。初診時の患者の歯の状態は、多数の歯の欠損、折損、残根状態等があり、上右及び下左にそれぞれブリッジが施されていたが、上右のブリッジは下顎側に落ち込んだ状態であり、慢性根尖性歯周炎や歯茎全体に及ぶ歯槽膿漏があった。
下左のブリッジには動揺があり、従来の義歯が合わなくなっていたことから、患者は、食事にも不都合を感じていた。担当歯科医師は、下左のブリッジ及び下左7の抜去後に、下顎の暫間義歯を製作後、上顎、下顎の順に義歯を製作するという治療方針を立てた。  
担当歯科医師は、下顎暫間義歯の装着を行い、残根状態の歯や補綴処理がなされた歯の根管治療等を開始した。  

平成12年4月28日には、上顎義歯が完成し、担当歯科医師は、患者の下顎義歯にユニファストを盛って咬合面を整えたが、上下噛み合わせがうまくいっていないことから、再度調整することになった。しかし、以後、患者は被告病院を受診しなくなった。その後、2、3か月の間に、患者の下顎義歯の鉤及び歯1本が欠け、咬合の状態が悪くなったので、患者は、平成12年11月から同年12月にかけて、上下義歯の製作を希望して甲歯科に通院し、保険適用外で磁石を入れない上下の義歯を製作するなど、欠損部位について補綴処置を受けた。その後、患者は、上右4の差し歯が抜けたことから、平成13年9月から乙歯科に通院し、上右6に義歯用の磁性体を取り付ける一方、上顎義歯にも磁性体を装着するという方法で咬合の安定を図るという治療を受けるとともに、全顎的な辺縁性の歯周炎の治療を継続的に受けた。  
患者は,被告病院に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。   

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.8.20
女性
(昭和12年生)
39万4960円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
①担当歯科医師が不適切な治療を行ったか否か。 <結論>
担当歯科医師の義歯作成順序は適切であった
<理由>
患者の初診当時の口腔内の状況に照らすと、当初から正常な咬合面に合わせた下顎義歯を製作した場合、咬合が歪み、義歯が合わなくなることがあるため、既存の咬合面に合わせた仮の下顎義歯を製作してから上顎義歯を製作し、その後咬合調整をして正常な咬合面に合わせた下顎義歯を再製作する必要があった。
②担当歯科医師に説明義務違反があったか否か。 <結論>
説明義務違反はない
<理由>
担当歯科医は、患者に対し、治療の概要及び目的、保険適用治療及び保険適用外治療の内容及び費用について十分説明し、義歯の製作についても十分な説明をしたものと認められる。また、義歯製作順序の説明については、被告病院における初診当時の患者の歯の状態等から判断して、担当医師が上顎義歯の製作後、最終的には咬合調整が必要となることを患者にまったく告げていなかったとも考え難い。仮に、下顎暫間義歯の説明が分かりにくいものであり、患者が暫間義歯を最終的な製作物と誤解する余地があったとしても、それが被告病院での治療の継続を困難にさせるほど歯科医師と患者との信頼関係を破壊するような重大なものであったと解することはできず、誤解を生じかねないような説明が債務不履行あるいは不法行為を構成するような違法性を有すると解することはできない。

C:審美

患者は、いずれは出っ歯であると感じていた上顎左右1番の歯を含めすべての歯をきれいに整形したいと考えていたところ、ひとまず、上顎左右2番の各歯について整形して大きくしたいと考え、平成7年3月28日、被告歯科医院を受診し、以後、被告歯科医院において審美治療を行うこととなった。  
担当歯科医は、患者に対し、上顎左右1番について、客観的には出っ歯ではないが、患者が出っ歯であると感じているのであれば、きれいに仕上げるためには上顎左右1番の歯を上顎左右2番と併せて治療するのが良いと提案し、また、上顎左右2番について大きくするには奥歯から治療する必要があると説明したところ、患者は、上顎左右2番と併せて上顎左右1番を治療することについては拒否し、奥歯から治療することについては同意した。治療においてはハイブリッドセラミックスの使用が合意された。 そして、被告歯科医院における治療が開始されたが、患者は数度にわたる長期間の治療中断をし(その中断期間はそれぞれ数か月から1年にも達するものであった。)、その後、患者の上顎右6番が平成10年6月20日ころ、上顎右7番が平成12年ころ、上顎左7番が平成13年3月ころそれぞれ破折した。  
そこで患者が、被告歯科医院を経営する担当歯科医師(個人)に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。  

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H14.7.31
男性 67万2千円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
①患者の上顎左右2番を整形する際、前歯から治療する必要があったか。また、担当歯科医は、奥歯から治療することについて患者の同意を得たか。 【前歯から治療する必要性
<結論>
前歯ではなく奥歯から治療する必要があった
<理由>
機械的咬合論に基づき、前歯誘導を付与するということが直ちに前歯から治療していくことを意味するものではなく、患者の症例において、前歯を大きく整形するためには、奥歯を挙上して前歯スペースを作る必要があった。
【患者の同意の有無】
<結論>
何ら合理的説明を受けずに奥歯からの治療に同意したとは考えにくい
<理由>
患者は、歯にこだわりがあり、他院での治療に不満をもって被告歯科医院を受診した経緯がある。
②担当歯科医が装着した患者の上顎左右2番は出っ歯であるか 解剖学的、矯正学的、審美的観点から、上顎左2番は出っ歯であるとは認められない。
③担当歯科医が装着した患者の奥歯が破折した原因は何か。また、これは担当歯科医の過失に基づくものであるか。 <結論>
奥歯の破折は、患者の複数回にわたる長期の治療中断と、他の歯科医院で装着したメタルクラウンが原因であり、担当歯科医に過失があるとはいえない
<理由>
患者の治療中断については、担当歯科医が患者の治療中断を前提にハイブリッドセラミックスが破折しないように処置を行っておくべきであったとはいえず、治療中断がないよう患者に注意すべきであったともいえない。

C:矯正トラブル

患者は平成5年9月に初めて被告歯科医院を受診し、平成6年2月から4月にかけて、右上1番2番と左上1番2番の歯を削ったうえでセラミックス製の被覆冠(ジャケットクラウン)を被せる補綴的矯正治療を受けた。  
患者は、矯正治療後の平成6年5月ころ、被告歯科医院の担当歯科医師に対して、ジャケットクラウンを被せた部分がしみると訴えたが、平成6年11月に噛み合わせの不調を訴えて被告歯科医院を受診して以降、平成8年6月までは被告歯科医院には来院しなかった。  
患者は、平成8年6月になって、左上2番にしみる感じがすると訴えて被告歯科医院を受診し、担当歯科医師は、口内所見などから歯肉炎と診断し、ブラッシング指導を行った。患者は、平成8年12月には、冷水を飲むと右上3番に痛みがあると訴えたので、担当歯科医師は、歯神経由来の痛みである可能性も考慮してレントゲン撮影を行い、次回の診察時に症状を確認して措置を検討することにした。  
患者は、平成9年4月から8月にかけて、上前歯4本について、ピリピリ痛む、しびれる感じがあるなどの症状を訴えたが、異常を訴える歯が特定できないことや受診ごとに異なる歯に異常を訴えることもあり、歯肉炎の症状も消失していなかった。担当歯科医師は、歯神経の異常を疑いつつも、患者の訴える症状が歯肉炎の症状とも合致しており、上前歯4本にう蝕が見られず、患者の主訴からも歯神経に異常がある歯を特定できなかったことから、歯肉炎の治療を優先して行うことにした。  
患者は、平成9年7月、他の医療機関において、右上1番と左上1番2番についてう蝕のない歯髄炎及び急性辺縁歯周炎と診断され、平成9年8月、左上2番の抜髄を受けた。また、他の医療機関において、平成9年12月に左上1番の抜髄を受けた。           
患者は、担当歯科医師に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.6.11
男性
(昭和11年生)
7891万0751円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
①担当歯科医師が補綴的矯正治療を行った際、歯を削りすぎたり注水量が少なすぎたりしたことで患者に歯髄炎を引き起こしたか否か。 <結論>
担当歯科医師が補綴的矯正治療を行った際に、患者に歯髄炎を生じさせたものとは認められない
<理由>
歯を削る際は、削りすぎを防止するため、削る深さを決めて切削用のバーを選ぶ方法がとられており、担当歯科医師もこれに従っている。注水量についても、一定量の水が自動的に噴出する構造になっており、機械が正常に作動していなかったとは認められない。
②担当歯科医師が補綴的矯正治療を行った際、歯を削る方法で矯正することや歯髄炎になる可能性があることを説明する義務があるか否か、説明義務があるとした場合、担当医師はそれを怠ったか否か。 【歯を削る方法で矯正する点に関して】
<結論>
説明義務はあるが、担当歯科医師に説明義務違反はない
<理由>
担当歯科医師は歯列矯正と補綴的矯正治療の2つの方法があることを患者に説明し、この説明を受けた患者が補綴的矯正治療を選択したことが認められる。
【歯髄炎になる可能性がある点に関して】
<結論>
説明義務はない
<理由>
補綴的矯正治療を行った際に歯髄炎が発症することはまれである。
③担当歯科医師が補綴的矯正治療を行った際、患者の歯に適合しないジャケットクラウンを被せた過失があるか否か。 <結論>
不適合なジャケットクラウンを被せたものとは認められない
<理由>
担当歯科医師は、患者にジャケットクラウンを被せる際、フィットチェッカーを使用して適合性を確認している。
④担当歯科医師が患者の症状を歯髄炎と診断せず抜髄をしなかったことに過失があるか否か。 <結論>
過失があったとはいえない
<理由>
・平成8年6月(通院再開まで):歯髄炎に罹患していたと認めることはできない
・平成8年6月~12月:患者が訴えていた症状は歯肉炎の症状にも合致するものであった
・平成9年2月~8月:歯肉炎の所見が残存しており、患者の訴える症状には歯肉炎の症状と合致する部分もあった。また、患者が異常を訴える歯が特定していなかった以上の事情を考慮すれば、担当歯科医師が、歯肉炎の完治を待って歯神経に異常があるか否かを判断するという方針をとり、歯髄炎と診断して抜髄措置を行うことをせず、歯肉炎に対する治療を継続したことは、歯科医師としての裁量の範囲内である。

C:矯正トラブル

患者は、平成10年2月13日、甲矯正歯科医院を訪れて、被告らとの間で全顎を矯正して上下顎全突を解消する治療を受ける旨の診療契約を締結した。  
患者に対する矯正治療は、平成11年11月6日まで、動的矯正が行われ、その後、同日から平成14年1月8日まで動的矯正装置に代えて歯の裏側に固定式保定装置を取り付け、補綴が行われた。  
患者は、平成14年1月8日同医院における最後の診療で、固定式保定装置を取り外された後、帰宅して、固定式保定装置が装着されていた上下切歯の裏側と確かめたところ、上切歯4本の裏側が虫歯のようになっていることを発見した。そこで、患者は翌9日、担当歯科医師Bに電話で問い合わせた後、別の歯科医師を受診したところ、上の歯のうち左右中切歯及び左右側切歯において、歯の中段付近の歯と歯の隣接面(隣の歯と接着している部分)に象牙質にまで達する齲蝕(虫歯)が進行しており、とりわけ左上中切歯の一部は歯根膜炎を発症していることが判明した。  
そこで、患者が担当歯科医師に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.7.10
女性
(昭和54年生)
410万5000円 慰謝料 50万円
弁護士費用 5万円
争点 争点に対する判断
担当歯科医師らは、十分にブラッシング指導を行うなど口腔内の衛生環境を良好に管理すべき義務に違反したか。 <結論>
診療契約上の義務違反があった
<理由>
担当歯科医師らは、患者に対し、保定期間中においては、今までと変わらず歯磨きをするようにと述べた程度で、それ以上に特にブラッシング指導を行うことはしなかった。この義務違反がなければ、本件虫歯の発生を防止することができたと推認するのが相当である。

D:顎関節症

患者は、平成9年5月10日、虫歯の治療をするため被告歯科医院を受診し、歯並びの治療も希望した。患者は、初診時、他院で歯の咬み合わせをめちゃくちゃにされたと訴えた。
平成9年8月23日からは、被告歯科医院院長が、患者の治療を担当した。被告歯科医院院長は、患者の症状を、咬み合わせの位置が低いことや冠が不適合であることを原因とする「左顎関節症」と診断し、顎関節への圧迫や負荷を軽減するため、まず右上の歯の既存の冠を除去し、右上の歯に仮歯を付けて上の歯の高さを調整し、次いで右下の歯に仮歯を付けて、下の歯で咬み合わせを調整するという治療方針を決めた。  
平成10年4月11日には、右側、左側いずれについても高さ調節による歯の咬み合わせの治療も一応終了し、患者は、9月11日は「最近は比較的調子いい」と述べ、被告歯科医院院長が行った咬み合わせの治療に不満を述べることはなかった。  
平成10年11月20日、患者は、被告歯科医院を受診して、右下の咬み合わせが高い気がすると訴え、その後被告歯科医院院長担当で咬み合わせの治療を再開したが、12月21日からは、患者の希望により、主にA歯科医師が咬み合わせの治療を担当するようになった。A歯科医師は、患者の咬み合わせについての希望に応じて、患者の歯の模型を参考に調整をした。治療中、患者は、平成11年1月20日、2月3日には比較的調子が良い旨述べていたが、平成11年5月10日以降、背中や首(後頭部)に痛みを訴え始めた。その後も患者の希望に従い、咬み合わせの位置を上げていく方向での調整が行われたが、4月26日に、患者が痛くて咬めなくなったと訴えたので、再び咬み合わせの位置が下げられた。治療途中であったが、患者は、以後、被告歯科医院への通院をしなくなった。  
そこで、患者は、被告歯科医院と被告歯科医院院長に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.10.20
女性 300万円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
①咬み合わせの治療を開始するに当たり、治療によりかえって咬合不全を生じる危険があり、顎関節症を発症する危険性の説明を怠った過失の有無 <結論>
過失があったとはいえない
<理由>
患者は、他の歯科医院で咬み合わせをおかしくされたと訴えていたのであるから、咬み合わせが微妙なものであり患者の感覚に適合しない場合には、その治療によって咬合不全や顎関節症が生じることがあることも理解していたものと考えられるため、治療の危険性について説明すべき義務があったとは認められない
②不適切な治療(顎関節症を発症させないよう万全の措置をとるべき注意義務を怠り、漠然と奥歯を高くしたり、あるいは低く切削した)の有無 <結論>
漫然と不適切な治療をしたものと認めることはできない
<理由>
患者は院長の治療に不満を述べることはなく、調子が良いと述べたこともある。また、A歯科医師は患者から出される細かい注文に応じて、患者の感覚を確認しながら、歯の形態や咬み合わせの高さの調整を続けており、患者はその治療に強い信頼感を示したこともあった。
③未熟な歯科医師に治療を担当させた過失の有無 <結論>
過失はない
<理由>
被告歯科医院院長が主に治療を行っていた期間中、ほかの歯科医師の関与は限定的であり、院長の治療方針に従ったものであった。また、A歯科医師は、患者の希望で咬み合わせ治療を担当するようになったものであり、被告歯科医院院長が責任を問われる理由はない。

E:タービンの接触事故

患者は、平成12年6月22日、担当歯科医師の妻が経営する被告歯科クリニックにおいて、担当歯科医師による虫歯治療を受けたところ、タービン(歯を削る器械)が原告の唇に当たり、長さ6mm、深さ0.5~1mmの傷害を負い、細い糸で4針縫うこととなった。なお、その後、その傷は、外見的には、近寄って注意深く見なければ見分けられない程度ではあるが、一筋の白い傷跡としてのこることとなった。そこで、患者が、担当歯科医師に対し損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.4.24
女性
(昭和40年生)
200万円 慰謝料 60万円
弁護士費用 10万円
争点 争点に対する判断
担当歯科医師が、タービンの操作を誤り、患者に対し、本件傷害を負わせたか。 <結論>
医師がタービンがぶれないように固定していた右手の薬指が滑り、急に止めようとしたが、その操作が間に合わず、患者に傷害を負わせたと認められる
<理由>
担当歯科医師は、患者が治療中に動いたため本件事故が発生したと供述したが、治療中の歯は既に神経を抜かれた歯であり、反射的に顔を動かすような痛みが生じたとは考え難く、仮に原告が動いたのであれば、本件訴訟に至るまでの間に、担当歯科医師がそのことに触れるのが自然である。しかし、本件訴訟に至るまで患者が動いたという事は一切述べておらず、担当歯科医師の供述は信用することができない(事故後の患者宛の手紙にも「唾液によって滑ったためか、圧排の力が弱かったためか」と記載されている)。

E:金属バーの残置

患者は、平成12年1月、被告歯科医院において、A歯科医師(大学病院口腔外科勤務の歯科医師で、被告歯科医院においても月1回程度診療を行っていた。)から、右下埋伏智歯を抜歯する処置を受けた。  
A歯科医師が抜歯のため智歯を削っていた際、歯を削る金属製のバーが破折し、A歯科医師は破折片を口腔内から取り除いて抜歯を継続したが、抜歯部を縫合するまでの間に、何らかの原因で、口腔内から取り除かれたバーの破折片が抜歯部に入り込んだ。しかし、A歯科医師は、破折片が抜歯部に入っていることに気付かず、抜歯部を縫合した。 平成12年3月ころ、抜歯部に残った破折部による反応性炎症により、患者の右下顎部に直径10mmほどの腫脹が生じるようになった。患者は平成12年4月に、被告歯科医院を受診してB歯科医師の診察を受けた。B歯科医師は、腫脹の原因として、顎骨炎やリンパ節炎を疑い、口腔内の観察、リンパ節の触診、オルトパントモグラフィー撮影を行った後、患者に対し、下顎腫脹の原因はよく分からないので、大学病院を受診してA歯科医師に診てもらうように指示し、患者にパントモ写真と診療情報提供書を渡した。 患者は、平成12年4月に、A歯科医師が勤務する大学病院を受診してA歯科医師の診察を受けた。A歯科医師は、患者の持参したパントモ写真を見て、右下智歯の抜歯部に金属片らしい異物があることに気づき、患者に対してそのことを説明した。このとき、A歯科医師は、診察した患者のことを、被告歯科医院で自身が抜歯をした患者であるとは気づいていなかった。  
患者は、平成12年4月、A歯科医師の勤務先とは別の大学病院において、バーの破折部を摘出する手術を受けたが、そのときは破折片を探り当てることができなかった。その後、患者は、平成12年5月に2度目の摘出手術を受け、抜歯部からA歯科医師が遺留した破折片が摘出された。患者の右下顎の腫脹は、平成12年3月末から徐々に増大し、発赤、排膿、圧痛なども生じるようになったが、破折片摘出後は徐々に沈静化した。しかし、現在も、外観からほとんど認識できない程度ではあるが、右下顎部に瘢痕が残っている。  
患者は、A歯科医師、B歯科医師、被告歯科医院を開設するC歯科医師に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。     

判決日 患者の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.12.24
女性
(昭和55年生)
1100万円 慰謝料 80万円
弁護士費用 10万円
争点 争点に対する判断
①B歯科医師に、A歯科医師が迷入させた破折片が抜歯部に存在することを認識したにもかかわらず、患者にそのことを告げず、医療過誤を起こしたA歯科医師に診察を受けるよう指示した説明義務違反があるか否か。 仮に、B歯科医師が、患者の抜歯部に破折片が存在することに気付いていなかったとすれば、破折片に気付かなかったことが診療上の過失となるか否か。 【説明義務違反の有無】
<結論>
説明義務はない
<理由>
B歯科医師は、右下顎部の腫脹が智歯抜歯を原因とするものであるとは考えておらず、歯根からの感染による顎骨炎等を疑っていたため、パントモ写真を撮影した際も、智歯抜歯部に写っている影に注意を払わず、患者の抜歯部に破折片が存在することに気付いていなかった。
【診療上の過失の有無】
<結論>
B歯科医師の過失とはいえない
<理由>
バーの破折片が抜歯部に入り込むことは、通常ではあり得ない異常事態であり、パントモ写真上白い影を見つけても、それが右下顎部の腫脹を関連があると気付くことは必ずしも容易ではない。このことに加えて、B歯科医師が、歯科矯正治療を主に行っていた歯科医師であることも考慮すれば、B歯科医師が、下顎腫脹の原因は自身では分からないと患者に告げて、口腔外科領域を専門とするA歯科医師の診察を受けるよう勧めたことは、歯科医師として相当な診療行為であったというべきである。
②患者の慰謝料額 (なお、破折片を残置させたA歯科医師の行為に過失があったことについては争いがない) <結論>
肉体的精神的苦痛に対する慰謝料として、80万円を認めるのが相当である
<理由>
患者は、バーの破折片を抜歯部内に遺留されたことによって、約2か月間にわたり、右下顎部に腫脹、発赤、圧痛、排膿などの症状を生じたこと、患者が当時19歳の女性であり、腫脹が生じた場所が顔面に近い部分であったこと、口腔内の侵襲を伴う摘出手術を2回にわたって受けることになったこと、外観からはほとんど認識できない程度であるが瘢痕が残ったことを考慮。
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