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どこまで説明する必要がある?(説明義務について)

説明義務とは、専門家である歯科医師が患者様に対して治療方針や治療内容などについて説明する義務です。

説明義務の内容・範囲

治療方針について何らの説明をしていない歯科医師はいないと思われますが、訴訟において説明義務違反とされる場合は歯科医師の常識とは異なります。
例えば手術に際する歯科医師の説明について、最高裁平成13年11月27日判決は、①診断(病名と病状)、②実施予定の治療内容、③治療に付随する危険性、④ほかに選択可能な治療法があれば、その内容と利害得失や予後を挙げております。
本判例は手術の際の説明についてですが、一般治療においても具体的な治療内容について説明をし、危険を伴うものであればその説明をする必要があり、それをさらに後に訴訟で証明する必要があります。

特に歯科の分野は、治療方法選択の幅が広く、自由診療比率が高く、外貌への影響が大きいため、患者様の自己決定権が広く認められることの裏返しとして、説明義務の範囲は多岐にわたると考えられています。 具体的には、病状、それに対する治療方法の概要のみならず、治療に用いられる材質や材料が多種に及ぶ場合には、その方法や材料、外貌への影響を含めた効果、治療に伴う副作用や危険性について説明を要します。
さらに、各治療について自由診療も含めて治療費の説明も必要です。

実際の歯科クレームでも「十分な説明を受けていない」と説明義務違反を追及するものが多いですし、説明をしっかり受けていないことが、歯科医師への不信感につながり、医療過誤の主張と成り得ますので十分注意する必要があります。

説明内容のカルテへの記載、方針説明書、同意書の交付

1.カルテへの記載
治療に際し、患者様に対して説明をしていても、後に患者様側から説明は聞いていないという主張が出てくることがほとんどです。 その際に、私は口頭で説明をした、衛生士も見ていたと主張したところで、証拠がない限り、説明したことは認定されません。 そこで、患者様に対して治療に関する説明を行った際には、カルテに説明内容を記載しましょう。

2.方針説明書の交付
それに加えて、患者様の記憶違いによるトラブルを防ぐために、方針説明書を交付することをお勧めします。
後のトラブルを防ぐのみならず、文書で説明することによって、患者様の歯科医師に対する信頼感も増すことが多いようです。
定型的な方針説明書をあらかじめ用意しておき、症例によって、チェックをすることで、手間を省くこともできます。
方針説明書は患者様の氏名を記入し、その患者様に対する説明であることを明確にし、原本を交付したとしてもそのコピーを医院で保管したり、複写式にするなどして、この世に1つしか存在しない原本を患者様に渡すことはやめましょう。
訴訟になれば、患者様側から医院に有利な証拠が提出されることはありません。

3.同意書の交付
通常の方針説明とは別個に、リスクを伴う医療行為を行う場合には、同意書を作成することをお勧めします。
よくトラブルとなる事例として、麻酔のリスク、抜歯の後遺症などを説明していない、又は説明をしたが、証拠が何も残っていないというケースがあります。
トラブルとなる典型例については、リスクを記載した同意書を作成することが後の紛争を防ぐために必須です。
同意書の記載内容については、個々の手技や医院によって異なりますので、弁護士にアドバイスを求めてください。

4.カルテの記載や方針説明書、同意書がない場合
カルテの記載や方針説明書、同意書がない場合には、訴訟において歯科医師の陳述書、証人尋問等で説明義務を果たしたことを立証していくこととなりますが、陳述書や証人尋問における証言は紛争になった後のものであり、カルテの記載に比べ信用性が低いと判断されることとなってしまいます。
そうなりますと真実説明をしたとしても証拠がないために敗訴してしまう可能性があります。
そのぐらい、裁判において証拠があるか否かは重要なことなのです。
しかし、証拠が残っていない場合でも、交渉過程で、説明を受けたことを前提に患者様が主張をしていること自体が、説明を受けた証拠となり得る場合があります。その点で、トラブルが生じた初期の時点で訴訟を見据えて行動できる弁護士に依頼をする必要があります。

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