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解決事例集

事例12-抜歯後の後遺症をめぐって、亡くなった患者様の相続人が被告病院を開設する国に対し損害賠償請求訴訟を提起した事例(大阪地判H14.9.25)

患者様は、昭和56年6月初めころ、口腔内に異物感を覚えたため、同月8日、甲歯科医院を受診し、同月15日、右上6番の抜歯術を受けた。その後、疼痛やしびれ感を覚えるようになったとして、同医院において継続的に治療を受け、右上6番付近の骨瘤除去術及び骨鋭縁部除去術、右上7番の抜髄術の措置として、アルゼン(抜髄を無痛的に行うために歯髄を失活させる薬剤{失活剤})仮封(貼付)及びホルマリンクレゾール(FC。根管消毒剤であるが、失活した歯髄を固定する効果もあるので、失活後の歯髄を抜髄する際に用いられる。)貼付を受けた。
患者様は、前記治療後麻痺感が生じ、それが増悪したとして、同年7月15日、被告病院(大学病院)歯科を受診し、担当歯科医師(教授)から右上6番の抜歯窩の治癒不全に対する治療及び右上7番の歯根膜炎に対する治療を受け、同年8月10日まで通院した。患者様は、その後も症状が改善しないとして、別の歯科医院や心療内科等を受診したが、昭和62年6月、自殺した。
なお、患者様の相続人は、平成2年に、前医の甲歯科医院に対し、損害賠償請求訴訟を提起したが、患者様の相続人敗訴の判決が確定した。 
そこで、患者様の相続人が、被告病院を開設する国に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者様の特性 請求額 認容額
大阪地判
H14.9.25
女性
(昭和23年生)
1億9051万0853円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
①担当歯科医は、初診時において、患者様の訴える麻痺感や痛み等の原因が、前医により右上7番に貼薬されたアルゼンの薬理効果によるものであると判断して、抜髄ないし抜歯等患者様の苦痛を除去ないし軽減する処置をなすべきであったのに、これを怠ったか。 <結論>
担当歯科医に過失はない
<理由>
被告病院で診察された歯根膜炎が、薬物性の歯根膜炎である可能性は低い。仮に患者様の歯根膜炎が、アルゼンが飛び石的に血行を介して歯根膜に移行したことにより生じた歯根膜炎であったとしても、右上6番の抜歯窩周囲の炎症が右上7番の歯根膜に波及した歯根膜炎の可能性が高いと診断したことは相当の理由(3つの理由が列挙)がある。
②担当歯科医の過失と患者様の自殺との間に因果関係があるか。 <結論>
担当歯科医に過失があると仮定しても、自殺との間に相当因果関係はない
<理由>
患者様の相続人は、担当歯科医において、患者様が砒素性歯根膜炎に罹患していたのを見落とした過失により、アルゼンが歯槽骨、上顎洞にまで達し、砒素性歯槽骨炎、砒素性上顎洞炎を引き起こし、それにより全身異常を引き起こし抑鬱状態になって自殺したと主張するが、患者様は砒素性歯槽骨炎、砒素性上顎洞炎であったとは認められない。また、自殺には他原因の存在も考えられる。
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