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解決事例集

事例16-義歯をめぐって治療ミスがあったとして、患者様が被告病院に対し損害賠償請求訴訟を提起した事例(東京地判H15.8.20)

 患者様は、平成11年3月30日、左下のブリッジの動揺を主訴として、被告病院歯科を受診した。初診時の患者様の歯の状態は、多数の歯の欠損、折損、残根状態等があり、右上及び左下にそれぞれブリッジが施されていたが、右上のブリッジは下顎側に落ち込んだ状態であり、慢性根尖性歯周炎や歯肉全体に及ぶ歯槽膿漏があった。
左下のブリッジには動揺があり、従来の義歯が合わなくなっていたことから、患者様は、食事にも不都合を感じていた。担当歯科医師は、左下のブリッジ及び左下7の抜去後に、下顎の暫間義歯を製作後、上顎、下顎の順に義歯を製作するという治療方針を立てた。  
担当歯科医師は、下顎暫間義歯の装着を行い、残根状態の歯や補綴処理がなされた歯の根管治療等を開始した。  

平成12年4月28日には、上顎義歯が完成し、担当歯科医師は、患者様の下顎義歯にユニファストを盛って咬合面を整えたが、上下噛み合わせがうまくいっていないことから、再度調整することになった。しかし、以後、患者様は被告病院を受診しなくなった。その後、2、3か月の間に、患者様の下顎義歯の鉤及び歯1本が欠け、咬合の状態が悪くなったので、患者様は、平成12年11月から同年12月にかけて、上下義歯の製作を希望して甲歯科に通院し、保険適用外で磁石を入れない上下の義歯を製作するなど、欠損部位について補綴処置を受けた。その後、患者様は、右上4の差し歯が抜けたことから、平成13年9月から乙歯科に通院し、右上6に義歯用の磁性体を取り付ける一方、上顎義歯にも磁性体を装着するという方法で咬合の安定を図るという治療を受けるとともに、全顎的な辺縁性の歯周炎の治療を継続的に受けた。  
患者様は、被告病院に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。   

判決日 患者様の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.8.20
女性
(昭和12年生)
39万4960円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
①担当歯科医師が不適切な治療を行ったか否か。 <結論>
担当歯科医師の義歯作製順序は適切であった
<理由>
患者様の初診当時の口腔内の状況に照らすと、当初から正常な咬合面に合わせた下顎義歯を製作した場合、咬合が歪み、義歯が合わなくなることがあるため、既存の咬合面に合わせた仮の下顎義歯を製作してから上顎義歯を製作し、その後咬合調整をして正常な咬合面に合わせた下顎義歯を再製作する必要があった。
②担当歯科医師に説明義務違反があったか否か。 <結論>
説明義務違反はない
<理由>
担当歯科医は、患者様に対し、治療の概要及び目的、保険適用治療及び保険適用外治療の内容及び費用について十分説明し、義歯の製作についても十分な説明をしたものと認められる。また、義歯製作順序の説明については、被告病院における初診当時の患者様の歯の状態等から判断して、担当歯科医師が上顎義歯の製作後、最終的には咬合調整が必要となることを患者様にまったく告げていなかったとも考え難い。仮に、下顎暫間義歯の説明が分かりにくいものであり、患者様が暫間義歯を最終的な製作物と誤解する余地があったとしても、それが被告病院での治療の継続を困難にさせるほど歯科医師と患者様との信頼関係を破壊するような重大なものであったと解することはできず、誤解を生じかねないような説明が債務不履行あるいは不法行為を構成するような違法性を有すると解することはできない。
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