解決事例集
事例17-審美治療をめぐって治療ミスがあったとして、患者様が担当歯科医師に対し損害賠償請求訴訟を提起した事例(東京地判H14.7.31)
患者様は、いずれは出っ歯であると感じていた上顎左右1番の歯を含めすべての歯をきれいに整形したいと考えていたところ、ひとまず、上顎左右2番の各歯について整形して大きくしたいと考え、平成7年3月28日、被告歯科医院を受診し、以後、被告歯科医院において審美治療を行うこととなった。
担当歯科医は、患者様に対し、上顎左右1番について、客観的には出っ歯ではないが、患者様が出っ歯であると感じているのであれば、きれいに仕上げるためには上顎左右1番の歯を上顎左右2番と併せて治療するのが良いと提案し、また、上顎左右2番について大きくするには奥歯から治療する必要があると説明したところ、患者様は、上顎左右2番と併せて上顎左右1番を治療することについては拒否し、奥歯から治療することについては同意した。治療においてはハイブリッドセラミックスの使用が合意された。 そして、被告歯科医院における治療が開始されたが、患者様は数度にわたる長期間の治療中断をし(その中断期間はそれぞれ数か月から1年にも達するものであった。)、その後、患者様の上顎右6番が平成10年6月20日ころ、上顎右7番が平成12年ころ、上顎左7番が平成13年3月ころそれぞれ破折した。
そこで患者様が、被告歯科医院を経営する担当歯科医師(個人)に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。
判決日 | 患者様の特性 | 請求額 | 認容額 |
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東京地判 H14.7.31 |
男性 | 67万2千円 | 0円 (棄却) |
争点 | 争点に対する判断 | ||
①患者様の上顎左右2番を整形する際、前歯から治療する必要があったか。また、担当歯科医は、奥歯から治療することについて患者様の同意を得たか。 | 【前歯から治療する必要性】 <結論> 前歯ではなく奥歯から治療する必要があった <理由> 機械的咬合論に基づき、前歯誘導を付与するということが直ちに前歯から治療していくことを意味するものではなく、患者様の症例において、前歯を大きく整形するためには、奥歯を挙上して前歯スペースを作る必要があった。 【患者様の同意の有無】 <結論> 何ら合理的説明を受けずに奥歯からの治療に同意したとは考えにくい <理由> 患者様は、歯にこだわりがあり、他院での治療に不満をもって被告歯科医院を受診した経緯がある。 |
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②担当歯科医が装着した患者様の上顎左右2番は出っ歯であるか | 解剖学的、矯正学的、審美的観点から、上顎左2番は出っ歯であるとは認められない。 | ||
③担当歯科医が装着した患者様の奥歯が破折した原因は何か。また、これは担当歯科医の過失に基づくものであるか。 | <結論> 奥歯の破折は、患者様の複数回にわたる長期の治療中断と、他の歯科医院で装着したメタルクラウンが原因であり、担当歯科医に過失があるとはいえない <理由> 患者様の治療中断については、担当歯科医が患者様の治療中断を前提にハイブリッドセラミックスが破折しないように処置を行っておくべきであったとはいえず、治療中断がないよう患者様に注意すべきであったともいえない。 |