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解決事例集

事例20-矯正治療の際、診療契約上の義務違反があったとして、患者様が担当歯科医師に対し損害賠償請求訴訟を提起した事例(東京地判H15.7.10)

患者様は、平成9年5月10日、虫歯の治療をするため被告歯科医院を受診し、歯並びの治療も希望した。患者様は、初診時、他院で歯の咬み合わせをめちゃくちゃにされたと訴えた。
平成9年8月23日からは、被告歯科医院院長が、患者様の治療を担当した。被告歯科医院院長は、患者様の症状を、咬み合わせの位置が低いことや冠が不適合であることを原因とする「左顎関節症」と診断し、顎関節への圧迫や負荷を軽減するため、まず右上の歯の既存の冠を除去し、右上の歯に仮歯を付けて上の歯の高さを調整し、次いで右下の歯に仮歯を付けて、下の歯で咬み合わせを調整するという治療方針を決めた。  
平成10年4月11日には、右側、左側いずれについても高さ調節による歯の咬み合わせの治療も一応終了し、患者様は、9月11日は「最近は比較的調子いい」と述べ、被告歯科医院院長が行った咬み合わせの治療に不満を述べることはなかった。  
平成10年11月20日、患者様は、被告歯科医院を受診して、右下の咬み合わせが高い気がすると訴え、その後被告歯科医院院長担当で咬み合わせの治療を再開したが、12月21日からは、患者様の希望により、主にA歯科医師が咬み合わせの治療を担当するようになった。A歯科医師は、患者様の咬み合わせについての希望に応じて、患者様の歯の模型を参考に調整をした。治療中、患者様は、平成11年1月20日、2月3日には比較的調子が良い旨述べていたが、平成11年5月10日以降、背中や首(後頭部)に痛みを訴え始めた。その後も患者様の希望に従い、咬み合わせの位置を上げていく方向での調整が行われたが、4月26日に、患者様が痛くて咬めなくなったと訴えたので、再び咬み合わせの位置が下げられた。治療途中であったが、患者様は、以後、被告歯科医院への通院をしなくなった。  
そこで、患者様は、被告歯科医院と被告歯科医院院長に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決日 患者様の特性 請求額 認容額
東京地判
H15.10.20
女性 300万円 0円 (棄却)
争点 争点に対する判断
①咬み合わせの治療を開始するに当たり、治療によりかえって咬合不全を生じる危険があり、顎関節症を発症する危険性の説明を怠った過失の有無 <結論>
過失があったとはいえない
<理由>
患者様は、他の歯科医院で咬み合わせをおかしくされたと訴えていたのであるから、咬み合わせが微妙なものであり患者様の感覚に適合しない場合には、その治療によって咬合不全や顎関節症が生じることがあることも理解していたものと考えられるため、治療の危険性について説明すべき義務があったとは認められない
②不適切な治療(顎関節症を発症させないよう万全の措置をとるべき注意義務を怠り、漠然と奥歯を高くしたり、あるいは低く切削した)の有無 <結論>
漫然と不適切な治療をしたものと認めることはできない
<理由>
患者様は院長の治療に不満を述べることはなく、調子が良いと述べたこともある。また、A歯科医師は患者様から出される細かい注文に応じて、患者様の感覚を確認しながら、歯の形態や咬み合わせの高さの調整を続けており、患者様はその治療に強い信頼感を示したこともあった。
③未熟な歯科医師に治療を担当させた過失の有無 <結論>
過失はない
<理由>
被告歯科医院院長が主に治療を行っていた期間中、ほかの歯科医師の関与は限定的であり、院長の治療方針に従ったものであった。また、A歯科医師は、患者様の希望で咬み合わせ治療を担当するようになったものであり、被告歯科医院院長が責任を問われる理由はない。
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